BCPのひな形・テンプレートの選び方と埋め方 — 中小企業向けガイド
「BCP(事業継続計画)を作ろう」と決めたあと、多くの人が最初にぶつかるのが「ひな形(テンプレート)はどれを使えばいいのか」という壁です。
種類が多すぎて選べない。ダウンロードしても、項目が多くて手が止まる。つまずくのは意志の弱さではなく、ひな形が「選び方」と「埋める順番」を知らないと使いこなせない道具だからです。
この記事では、自社に合うひな形の選び方と、迷わず埋めるコツを、中小企業の経営者・個人事業主に向けて整理します。「埋めきる」ことではなく、「使える1枚にする」ことを一緒に目指しましょう。
ひな形を使う意味と、ひとつの落とし穴
ひな形を使う一番の意味は、考える項目の抜け漏れを防げることです。
ゼロから自分でBCPを書こうとすると、「何を書けばいいのか」から悩みます。ひな形は、先人が整理した「決めておくべき項目の一覧」です。連絡体制、重要業務、復旧の目標時間 — こうした論点を、あなたが思い出す必要なく順番に並べてくれます。この時短効果は大きく、最初の一歩としてひな形は心強い味方になります。
ただし、ひとつだけ気をつけたい落とし穴があります。それは、空欄を埋めただけで「BCPができた」と安心してしまうことです。
ひな形の欄を全部埋めても、それはまだ「様式に文字が入った状態」にすぎません。有事に本当に効くのは、書かれた内容が自社の実態に合っていて、いざというとき誰かがその1枚を見て動けることです。ひな形はゴールではなく、あくまで出発点。この前提を持っておくだけで、この後の選び方・埋め方がぐっと現実的になります。
どんなひな形があるか
世の中のBCPひな形は、大きく2種類に分けて考えると見通しが良くなります。
1つ目は、公的機関が公開している汎用の様式です。国の機関である中小企業庁は、中小企業向けにBCPの策定・運用の指針を策定し、あわせて記入用の様式を公開しています。中立的で、業種を問わず使える土台として設計されているのが特長です。まずはこうした公的な様式を軸に考えると、迷いが減ります。
なお、公的な様式は内容が更新されることがあります。具体的な様式名・項目の数・入手先の細かい手順は、必ず中小企業庁など発行元の公式サイトで最新版を確認してください。本記事では「どう選び、どう埋めるか」に絞ってお伝えします。
2つ目は、業種や目的に特化したひな形です。製造業、小売業、飲食業、介護・福祉など、業種ごとの事情を反映した様式が、業界団体や自治体、民間サービスから提供されている場合があります。自社の業種と近いものが見つかれば、サプライチェーン(原材料の調達から販売までのつながり)や、電気・水道・通信といった重要インフラ(社会生活を支える基盤)への依存など、その業種特有のリスクがあらかじめ盛り込まれていることがあります。
まずは公的な汎用版で全体像をつかみ、必要に応じて業種特化版で肉付けする — この二段構えがおすすめです。
自社に合うひな形の選び方の基準
ひな形選びで大事なのは「立派さ」ではありません。自社が実際に運用できるかです。次の3つの基準で見てください。
基準1:分量が自社の身の丈に合っているか
従業員が数名の事業なら、数十ページの詳細な様式は、埋めきる前に息切れします。まずは項目数の少ない軽いひな形を選び、足りなければ足す。多すぎるものを削るより、少ないものに足すほうが、手は動きやすいものです。
基準2:自社のリスクが想定されているか
自社にとって一番怖い事態を一つ思い浮かべてください。それが仕入れ先の断絶ならサプライチェーン強靭化(調達網が途切れても事業を続けられるようにする工夫)に触れた様式を、停電や断水ならインフラ停止を想定した様式を選ぶと、自社の現実に近づきます。たとえば地震だけを想定した様式を選ぶと、いざ主要な仕入れ先が倒れたときに書く欄がなく、絵に描いた餅になりがちです。
基準3:更新のしやすさ
BCPは一度作って終わりではなく、連絡先や取引先の変化に合わせて直し続けるものです。エクセルやWordなど、あなたが日常的に触れる形式で、書き換えやすいものを選んでください。凝ったPDFや専用ソフト前提の様式は、直すのが面倒で結局そのまま古びていきます。凝ったレイアウトより、直しやすさが勝ちます。
埋め方のコツ — 最初に埋める項目の順番
ひな形を開いたら、上から順に埋めていく必要はありません。効き目の大きい項目から先に埋めるのがコツです。手が止まりにくく、途中でやめても「使える部分」が残ります。
おすすめの順番は次の通りです。
- 連絡体制(誰と、どうつながるか) — 従業員・主要な取引先の連絡先。電話が通じない時の第2の手段まで書けると、有事の効き目が段違いです。
- 重要業務(何を最優先で守るか) — 全業務ではなく、止まると事業が傾く一番の柱を1〜2個。
- 必要な資源(それを動かすのに何が要るか) — 人・データ・鍵や印鑑・設備など、重要業務に不可欠なもの。
- 復旧の目標(いつまでに戻すか) — 「翌日まで」「3日以内」程度の目安で十分です。
- その他の詳細項目 — 残りの欄は、上の4つが固まってから埋めれば間に合います。
埋めるときのコツは、わからない欄は空欄のまま先に進むことです。1か所で悩んで全体が止まるのが、一番もったいない。まず埋まる欄から埋め、7割できたら一度完成とみなす。この割り切りが、着手を挫折に変えないための鍵になります。
ひな形の限界と、そこからの「自社化」
最後に、いちばん大切な話をします。ひな形は、あなたの会社の事情までは知りません。
様式はよくできていますが、あくまで平均的な会社を想定した器です。「一番の売上を支える顧客」「その人しか場所を知らない鍵」といった自社固有の中身を書き込む仕上げの工程が、別に必要になります。ただ、いきなり完璧を目指すと手が止まります。本当に効く数項目だけを紙1枚に落とし込む具体的な手順は、経営者が知るべきBCP最小セットにまとめました。ひな形を選んだら、次はこちらへ進んでください。
「そもそもBCPって何だっけ」と土台から確かめたい方は事業継続計画(BCP)とはを、他社が実際にどう作ったのかを知りたい方は中小企業のBCP、事例でわかる作り方をあわせてどうぞ。ひな形選びで迷ったら、この3本が道しるべになります。
まとめ
- ひな形は「項目の抜け漏れを防ぐ道具」。埋めただけで安心せず、出発点と考える。
- ひな形は「公的機関の汎用版」と「業種特化版」の2種類。まず汎用版で全体像をつかむ。最新の様式は発行元の公式サイトで確認する。
- 選ぶ基準は、立派さより「分量・自社リスク・更新のしやすさ」の3つ。
- 埋めるときは、連絡体制 → 重要業務 → 必要な資源 → 復旧目標の順に。わからない欄は飛ばして先へ進む。
- 仕上げは「自社化」。ひな形に自社の顔を書き込み、まずは最小セットから始める。
ひな形は、完璧に埋めるための試験用紙ではありません。あなたの事業を止めないための、たたき台です。まずは一つダウンロードして、連絡体制の欄から書き始めてみてください。
自社にとってのBCPをどう組み立てるか、一緒に整理したい方はお問い合わせからご相談ください。
この記事は山本 篤の独自の視点と知見に基づき執筆されたものです。中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」等の公開情報を踏まえて構成しています。具体的な様式・項目は各発行元の最新版をご確認ください。

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