中小企業のBCP、事例でわかる作り方 — 3つのケースで学ぶ実践ステップ
BCP(事業継続計画)という言葉は知っていても、「具体的に何をどう書けばいいのか」でつまずく中小企業の経営者の方は多いと思います。
ガイドラインを読んでも抽象的で、自社に置き換えるイメージが湧かない。そんなときに一番効くのが、ほかの会社の事例から逆算して考えるやり方です。
この記事では、災害タイプの異なる3つの会社を例に、「状況→困りごと→打った手→学び」の順でBCPの作り方をたどります。最後に、3つの事例に共通する作り方の型と、自社版を作る最初の一歩までまとめます。
ここで紹介する3社は、中小企業庁などが公開している事業継続の考え方を一般化した、典型例をもとにした架空のモデルケースです。実在する特定の企業ではありません。自社の状況に重ねて読んでいただくための「たとえ話」としてお使いください。
事例から学ぶ意味
BCPがむずかしく感じるのは「正解の書式を埋める作業」だと思ってしまうからですが、実際の事業継続は書式ではなく判断の積み重ねです。「何を最優先で守るか」「止まったとき誰がどう動くか」を、自社の事情に合わせて決めていく作業です。
事例が役に立つのは、ここを他社の具体的な判断として見せてくれるからです。抽象的な手順を読むより、「この会社はこう困って、こう動いた」という一連の流れを追うほうが、自社に置き換えやすくなります。
これから挙げる3社は、それぞれ違うリスクに直面します。災害の種類は違っても、困りごとの構造と打ち手の型はよく似ていることに気づくはずです。その共通点こそ、あなたの会社のBCPの骨組みになります。
【事例1】地震・自然災害に備えた製造業の例
状況:従業員15名の金属加工業。受注の大半を、近隣の工業団地にある2社からの継続発注に頼っています。工場には専用の加工機械が並び、ここが止まると製品が作れません。
困りごと:地震を想定したとき、不安は「機械が壊れること」だけではありませんでした。整理してみると、従業員と連絡が取れるか/図面や受注データが残っているか/取引先にいつ復旧できると伝えられるかという、情報と連絡の問題が大半を占めていたのです。
打った手:この会社がまず取り組んだのは、設備の耐震ではなく情報の二重化でした。図面と受注台帳をクラウドに保存し、紙だけだった状態を解消。あわせて従業員の緊急連絡網を作り、家族経由の第2連絡先まで持つようにしました。
そのうえで「機械が一部使えなくても、同業他社に一時的に加工を委託する」という代替案を、平時のうちに知り合いの工場と口頭で握っておきました。
学び:製造業のBCPというと設備投資を思い浮かべがちですが、先に効いたのは数万円以下でできる連絡網とデータ保全でした。「お金のかかる対策」と「すぐできる対策」を分け、後者から着手したのが復旧力につながっています。
【事例2】取引先途絶・サプライチェーン断絶に備えた卸/小売の例
状況:従業員8名の食品卸。地方の生産者から仕入れ、地域の飲食店へ卸しています。仕入れの約6割を、特定の1つの産地に依存していました。
困りごと:心配していたのは自社の被災ではなく、仕入れ先が被災して商品が入ってこなくなることでした。これはサプライチェーン(原材料の調達から販売までのつながり)の断絶という、自社の外側で起きるリスクです。
主要産地が災害に遭えば、自社が無事でも売る商品がなくなり、取引先の飲食店にも迷惑がかかります。
打った手:この会社はサプライチェーン強靭化(調達網が途切れても事業を続けられるようにする工夫)に取り組みました。具体的には、仕入れ先を別の地域にも分散させ、いざというときに切り替えられる第2の調達先を確保。
さらに「どの商品が止まると売上への影響が大きいか」を一覧にし、影響の大きい品目から優先して代替先を押さえました。あわせて主要な取引先には、有事の際の連絡担当と連絡順を決めておきました。
学び:自社だけが頑張っても、つながっている相手が止まれば事業は止まります。一社・一産地への依存度を下げ、止まったときの代替ルートを平時に用意しておくことが、卸/小売の事業継続では特に効きます。仕入れ先の分散は、サプライチェーンリスクの見える化とセットで考えると進めやすくなります。
【事例3】感染症・人手途絶に備えたサービス業の例
最初に見えた問題:従業員12名の介護・生活支援サービス事業者です。利用者の生活に直結するため、サービスを止めると影響が大きい業種です。電気・水道・通信といった重要インフラ(社会生活を支える基盤)への依存度も高く、当初は「停電や断水でサービスが止まること」を一番心配していました。
本当のボトルネック:ところが感染症の流行を想定すると、もっと根の深い問題が見えてきました。複数のスタッフが同時に出勤できなくなり、「人が足りないとサービスそのものが止まる」という、設備でもデータでもない事態です。
決めたこと:そこでこの会社が決めたのは、業務に優先順位をつけることでした。「利用者の安全に直結する業務(最優先で続ける)」「数日なら止めても影響が小さい業務(後回し)」を仕分け、人手が減ったときに何を残すかをあらかじめ決めておきました。
あわせて、一人しかできない業務をなくすため手順書を作って複数人が対応できる状態にし、欠勤者が出ても回せるようにしました。連絡手段も電話だけに頼らず、チャットなど複数経路を用意しました。
気づき:サービス業のBCPの核心は、設備ではなく人と業務の優先順位でした。「全部やる」を捨て、「これだけは続ける」を先に決めておくことが、人手が一気に欠けたときの支えになります。
事例に共通する”作り方の型”
タイプの違う3社を並べると、打ち手の順番がそっくりなことに気づきます。これがそのまま、自社版BCPの作り方の型になります。
| ステップ | やること | 3事例で実際に打った手 |
|---|---|---|
| 1. 優先業務を決める | 「これだけは止められない」業務を選ぶ | 加工を続ける/仕入れを切らさない/利用者の安全を守る業務を最優先に設定 |
| 2. リスクを想定する | その業務が止まる原因を具体的に挙げる | 地震で工場停止/主要産地の被災/感染症で人手の同時欠勤 |
| 3. 代替策を用意する | 止まったときの「もう一つの手」を平時に準備 | 同業他社への加工委託/第2産地の確保/手順書で複数人対応 |
| 4. 文書化して共有する | 連絡網・優先順位・代替先を紙やデータに残す | 緊急連絡網/影響度別の品目一覧/業務手順書を作成・共有 |
ポイントは、この4ステップは災害の種類が変わっても同じだということです。地震でも、仕入れ途絶でも、感染症でも、「優先業務→リスク想定→代替策→文書化」という流れは変わりません。
だからこそ、最初から完璧を目指す必要はありません。自社の優先業務を1つ決めるところから始めれば、残りのステップは自然とつながっていきます。
自社版を作る最初の一歩
事例をなぞったら、次は自社に置き換える番です。やることはシンプルで、3社に共通した4ステップを、自社の言葉で埋めていくだけです。
- 優先業務を1つ選ぶ:「これだけは止められない」という自社の仕事を、まず1つだけ書き出します
- 止まる原因を考える:その仕事が止まるとしたら何がきっかけか(地震・取引先・人手など)を挙げます
- 代替策を1つ持つ:止まったときの「もう一つの手」を、平時のうちに1つ決めておきます
この3つを書けた時点で、あなたの会社のBCPは骨組みができています。いきなり分厚い計画書を作る必要はありません。
そのうえで、具体的に何を書き出すか(連絡網・顧客・データのバックアップ等)は、実装編の経営者が知るべきBCP最小セットに紙1枚でまとめる手順を整理しています。
BCPという言葉の意味や全体像から確認したい方は、こちらもあわせてどうぞ。
事例2のように仕入れ・取引先の途絶が気になる方は、こちらが参考になります。
ここまで読んで、「型はわかったけれど、自社だとどの業務を優先すべきか迷う」と感じた方もいると思います。そこは、自社の事情を一緒に整理しながら決めていくのが一番の近道です。
自社のBCPを一緒に作りたい方は、お気軽にご相談ください。
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この記事で紹介した3つのケースは、中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」や内閣府「事業継続ガイドライン」などの公開情報をもとに一般化した架空のモデルケースです。実在する特定の企業を指すものではありません。本記事は山本 篤の視点と知見に基づいて執筆しています。
📖 理論で深掘り(note)
中小企業のBCPが「街の復興そのもの」である理由を、バルセロナの事例からnoteで掘り下げています。
→ 街が戻るかは、小さな会社が再開できるかで決まる — バルセロナが教える中小BCPの本質

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