経済安全保障推進法の「対象企業」はどこ?自社が該当するか確認する視点
「経済安全保障推進法って、うちみたいな小さな会社も対象なの?」
中小企業の経営者や個人事業主の方から、最近この質問をよくいただきます。ニュースで法律の名前は見かけるけれど、自社が当てはまるのかどうかが分からない。そういうもやもやを抱えている方が多いのだと思います。
この記事では、その「対象は誰なのか」という1点にしぼって、やさしく整理します。法律そのものの中身(何を決めた法律か)は別の記事にゆずり、ここでは自社が関係するかどうかを見分ける視点をお届けします。
法律の全体像から知りたい方は、先に経済安全保障推進法をわかりやすくを読むと、この記事がすっと入ってきます。また「そもそも経済安全保障とは何か」という大きな地図は経済安全保障とは何かにまとめてあります。
「うちは対象?」と不安になるのは自然なこと
そもそも、なぜこの不安が生まれるのでしょうか。
理由はシンプルで、経済安全保障推進法の「対象」が、ひとつの線でスパッと引けないからです。多くの法律は「資本金いくら以上」「この業種」といった分かりやすい線引きがあります。ところがこの法律は、国が必要だと判断したモノや設備を、その都度くわしく指定していくつくりになっています。
つまり対象は固定ではなく、世界情勢に合わせて少しずつ変わっていきます。だから「うちは入っているのか、いないのか」が、ぱっと見では分かりにくい。不安に思うのは、あなたの理解が足りないからではなく、制度がそういう性質だからです。
まずはこの前提を押さえたうえで、4つの柱ごとに「誰が対象なのか」の考え方を見ていきましょう。
推進法が”誰に”効くのか — 4本柱ごとの対象の考え方
経済安全保障推進法は、守る対象を4つの分野に分けています。柱ごとに「対象になる人」の考え方が違うので、順番に見ていきます。
柱1: 特定重要物資を扱う事業者
1つ目は、生活や産業に欠かせないモノを安定して確保する仕組みです。
ここで対象になるのは、特定重要物資に指定された品目を扱う事業者です。半導体や重要鉱物、医薬品など、途絶えると社会が揺れる品目が、国によって順に指定されていきます。
大事なのは、品目は政令で個別に指定され、入れ替わるという点です。今の指定リストに自社の扱う品目が入っているかは、内閣府や所管省庁の最新の公表で確認するのが確実です。一覧を丸暗記する必要はありません。
柱2: 基幹インフラ事業者
2つ目は、社会を支える重要な設備を、導入の段階から点検する仕組みです。
対象は基幹インフラを担う事業者です。電力・通信・金融・鉄道など、止まると社会が混乱する分野が想定されます。
なお、対象業種は政令で指定されており、ここで挙げた分野はあくまで一例です。指定業種の全容は、内閣府・内閣官房の公表資料でご確認ください。
ただし、ここで対象になるのは各業種のなかでも一定の規模をもつ大手の事業者が中心です。具体的にどの事業者が当てはまるかは、業種ごとの基準にもとづいて指定されます。中小企業がこの柱に直接該当する場面は多くありませんが、後で述べる「取引先経由」での影響は別の話です。
柱3: 官民で技術協力する事業者
3つ目は、国と民間が力を合わせて先端技術を育てる仕組みです。人工知能、量子、宇宙といった分野が想定されています。
この柱は規制ではなく「参加型」です。対象は固定の名簿ではなく、研究開発の公募に手を挙げた事業者。つまり中小企業やスタートアップにとっては、該当を恐れる柱ではなく、むしろ機会の入り口になりうる柱です。
柱4: 機微な特許に関わる事業者
4つ目は、安全保障に関わる発明をあえて公開しない仕組みです。対象は武器などに転用できる機微技術に関わる発明を出願した人に限られ、多くの事業には直接関わりません。先端的な研究開発をしている方だけ、頭の片隅に置いておけば十分です。
直接の対象か、取引先経由の間接影響か
ここがいちばん大事なところです。「対象企業」には、直接の対象と、取引先を通じた間接的な影響の2種類があります。
直接の対象とは、法律が名指しでルールを課す事業者です。特定重要物資を扱う大手メーカーや、基幹インフラを担う事業者などが当てはまります。中小企業がここに入る場面は、それほど多くありません。
一方で、間接的な影響は、もっと広い範囲に届きます。たとえば、大手の取引先が基幹インフラや特定重要物資に関わっていると、その下請けや納入先にも確認の波が回ってきます。「部品はどの国から調達しているか」「セキュリティ対策はどうか」といった問い合わせや、書類の提出を求められるかたちです。
つまり、自社が法律の直接対象でなくても、サプライチェーンのつながりを通じて、実務では関わってくる。「直接対象ではない=無関係」ではないことを、まず押さえておきたいところです。
自社が該当するか確認する3つの視点
では、自社がどちらに当てはまるのかを、どう確かめればよいのでしょうか。難しい調査は要りません。次の3つを眺めるところから始められます。
視点1: 自社の扱う品目・事業が4本柱に直接触れていないか
自社の主力商品やサービスが、特定重要物資の品目や基幹インフラの業種に直接当てはまるかを確認します。当てはまりそうなら、それは直接対象の可能性があるサインです。指定は変わるので、最新の状況は内閣府・所管省庁の公表で照らし合わせるのが確実です。
視点2: 主要な取引先が4本柱に関わっていないか
売上上位の取引先を思い浮かべて、その事業が半導体や重要鉱物、あるいは電力・通信・金融・鉄道といった分野に関わっていないかを見ます。関わる取引先があれば、いずれ自社にも確認の波が回ってくる、と心づもりができます。これが「取引先経由の間接影響」を見つける視点です。
視点3: 先端技術・研究開発をしているか
自社が先端的な技術の研究開発をしているなら、柱3と柱4の2つに関わる可能性があります。やることは、それぞれ1つずつです。
- 柱3への対応: 官民の技術協力は参加型なので、所管省庁の公募情報を定期的に追うだけで、機会を取りこぼさずに済みます。
- 柱4への対応: 機微技術に近い発明を出願する前に、弁理士に「これは公開を見送る対象になりうるか」を一度確認しておくと安心です。
この3つは、今日すぐ何かを変えるためのものではありません。自社が4本柱のどこに、どれくらい近いのかを知るための地図づくりです。
該当しそうなら、何をするか
3つの視点を眺めて「うちも関わりそうだ」と感じたら、あわてて大きな対策を始める必要はありません。順番があります。
まずは、事実を確認することです。指定品目や対象業種は変わっていくので、内閣府や所管省庁の最新の公表をもとに、自社や取引先が今どの位置にいるかを確かめます。思い込みで「対象だ」「対象でない」と決めないことが大切です。
次に、取引先からの確認に備えることです。調達先の国の一覧や、扱う品目の整理だけでも先にしておくと、いざ問い合わせが来たときに落ち着いて答えられます。
この2ステップをやってみて、それでも自社の立ち位置がまだ見えにくいと感じたら、一緒に整理しましょう。あなたの事業に固有の取引先のつながりや、調達の偏りを、一緒に地図にしていきます。「対象かどうか」のもやもやを、具体的な確認リストに変えるところからお手伝いします。
なお、柱1で出てきた品目をもっと知りたい方は、特定重要物資とはを読むと、どんなモノが指定され、自社にどう関わるかがさらに具体的に見えてきます。
→ お問い合わせ
この記事は山本 篤の独自の視点と知見に基づき執筆されたものです。経済安全保障推進法の対象範囲は、内閣府・内閣官房・所管省庁等の公式公表資料を参照しています。対象となる物資・業種・事業者は政令や告示で個別に指定され、随時見直されます。自社の該当性を判断する際は、必ず公的機関の最新の公表資料をご確認ください。

コメント